最近、心が乱れてるなと思うなら、美しい日本語の波に溺れるといい。

日本語は美しい言葉だ。

その事実をどれ程の人が認識していて、これほどその事実を実感させてくれる小説があるだろうか。

ストーリーは、特になにもない日常生活の些細な出来事を淡々と書き綴っているだけなのだが、登場人物が立ってくるというか、設定である大正期の大阪の旧家の家の中に引き込まれて、そばでこの家族をじっと見ているような感覚に陥らせる。

永遠に読み続ける事が出来そうな流暢な上流階級の上方言葉。

関西弁は苦手だが、これを読むと芦屋にでも住みたくなる。

谷崎潤一郎が、文章を人に読ませるためにどう書くかを徹底的に考えて、さらにそれを分かりやすく仕上げているその圧倒的な筆力を強く感じる上巻。

日本文学にそびえ立つ、谷崎潤一郎という大きな山脈を実感できる。

このままなにも起こらなくとも、この日本語の波に飲み込まれていればそれで幸せであると思える本。

日本語を読むことができてよかったと心から思う。

美しいものは人をみとれさせ、時間を奪う力を持つが、それと同じ感覚。

ちなみに登場人物の4姉妹をどれだけ美しい人だと想像できるかも、この本に夢中になるための重要な要素だと思う。

おれのなかで雪子は天使になっている。

中巻、下巻とまだまだ楽しみである。

出来れば天使に結婚して欲しくないとさえ、思い始めてしまっている。

細雪 (上) (新潮文庫)

細雪 (上) (新潮文庫)